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仙台高等裁判所 昭和63年(ラ)84号 決定 1988年12月09日

抗告人

甲木次郎

抗告人

甲木ハナ

抗告人

甲木三郎

上記三名代理人弁護士

長岡寿一

事件本人

甲木太郎

相手方

乙川冬夫

主文

本件抗告中、親権者変更の審判に対する抗告のうち、抗告人甲木次郎、同甲木ハナの抗告は、いずれも、これを棄却し、抗告人甲木三郎の抗告は、これを却下し、後見人選任申立却下審判に対する抗告は、いずれも、これを却下する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一抗告人らは、「原審判を取り消し、本件を山形家庭裁判所に差し戻す。」旨の裁判を求めた。

二当裁判所の判断

1 抗告人らの抗告の適否について案ずるに、本件抗告は対象となる原審の審判は、親権者変更の審判と、後見人選任申立却下の審判である。

2(1) まず、親権者変更の審判に対する即時抗告について検討する。

(2)  親権者変更の審判に対して即時抗告をすることができる者は、家事審判規則(以下、単に規則という。)七二条、五五条により、「父、母又は子の監護者」に限られているところ、ここの「子の監護者」には、一般に、単に事実上子を監護する者を含まず、父母の協議または審判等により子の監護者として指定された者である(家事審判規則五二条等参照)と解されているようであるが、このように解しても、通常の場合には、親権者変更の審判については、実質上、父、母または子の監護者の何れかは、利害が対立し、その審判が不当と考えるときには、その何れかが即時抗告をして審判の当否について抗告審の裁判を求めることができ、これらの者が不服申立てをしないようなときには、親権者変更の審判の相当性が確保されるものともいえ、特に他の親族等の不服申立権を認める必要がないといえる。要するに、父、母または子の監護者(協議または審判等により指定されている者)により子の幸福ないし福祉についての上級審により審査される法的保護は充分であるということはいえよう。

しかし、本件のように、離婚に際し、親権者と定められた母(妻)が死亡した場合において、父(夫)から親権者変更の申立がなされ、その申立てが認められたようなときには、親権者であった母からの委任に基づき事実上子を監護する者であれば、たとえ、協議または審判等により特に監護者と指定されていなくても、子の幸福ないし福祉を護るため、その審判に対しては、即時抗告を申し立てることができると解するのが相当である(規則七二条により準用される規則五五条の子の監護者に準ずる者に当たると解すべきである)。蓋し、事実上子を監護する者であっても、もともと親権者であった母の委任に基づいて子を監護している以上、その地位は、子を監護する者として親権者たる母に最も近い者であり、かつ、通常の場合ならば、子の幸福ないし福祉を護るべく、親権者たる母がその権利を行使することができるのに、母の死亡により、現にこれを行使することができないようなときには、母の委任に基づき現に子を監護している者は、母に最も近い者として重要な立場に立つ者ということができるところ、親権者変更の審判は、原審たる家庭裁判所の専権に委ねず、「父、母又は子の監護者」に対し即時抗告権を認め、抗告審による法的判断を保障していることに徴すれば、本件のような事件においても、母の委任に基づいて事実上子を監護している者については、これに含まれると解するのが、むしろ法の精神に適うものといえるからである。

(3)  一件記録によると、抗告人甲木次郎は、亡春子(親権者)の父(事件本人であり子である太郎の祖父)、抗告人甲木ハナは、同じく母(太郎の祖母)であり、いずれも、亡春子の実家に居住する者として、亡春子の生存中から太郎(事件本人)の監護保育に深く関係し、亡春子が乳癌にかかり病床に臥している間も正に亡春子に代わり監護保育に当たった者であり、亡春子の死亡後も同様に太郎の監護保育に連帯して責任を以てこれに当たっていることが認められる。これらの事実によれば、右抗告人らは、亡春子の委任に基づき太郎の監護保育に当たっていた者と言うべく、従って、同抗告人らは、適法に、本件の親権者変更の審判に即時抗告の申し立てができるものというべきである。

(4)  ただ、抗告人甲木三郎について検討するに、同抗告人は、亡春子の弟(太郎の叔父)であって、抗告人甲木次郎、同甲木ハナらと同居し、現在では、その生活の基盤の維持の主体であって、経済的には抗告人甲木三郎によることが大きく、かつ太郎(事件本人)を自己の子どもと同様可愛がったり、遊んでやったりし、その監護保育に深く関係しているとはいうものの、主とし太郎の監護保育に当たっているものと断じ難く、やはり、両親(太郎の祖父母)の補助的な地位に留まると認めるのが相当であり、現時点では、同抗告人に独自に本件の親権者変更の審判に即時抗告の申し立てができる者に該当すると認めることは、困難である。よって、抗告人甲木三郎の即時抗告は、不適法として却下すべきである。

(5) そこで、抗告人甲木次郎、同甲木ハナ両名の即時抗告の当否について検討するに、当裁判所も、この点については、原審の判断を正当と認めるが、その理由は、原審が詳細に説示するとおりであるので、これを引用する。

(6) 現に養育に関係する抗告人らの心情は察するに余りがあるが、子である太郎(事件本人)の将来を踏まえた幸福ないし福祉のためには、現在、親権者を父である相手方に変更するのが、むしろ、相当と認められるのであり、抗告人らも、亡春子の遺志を強調せずに、太郎(事件本人)の将来という大局的見地からも考慮し、実父でありかつ兄を養育している相手方に親権者を変更することの相当性に理解をすることを強く希望するものである。

3 後見人選任申立却下の審判に対する即時抗告について検討するに、後見人選任申立却下の審判に対し、即時抗告を認める規定は、規則には無いから(家事審判法一四条参照)、かかる審判に対しては不服を申し立てることはできなく、したがって、この部分の審判に対する即時抗告は、不適法として、却下を免れない。

4  よって、本件抗告中、親権者変更の審判に対する即時抗告については抗告人甲木次郎、同甲木ハナの分についてはいずれも棄却し、抗告人甲木三郎の分についてはこれを却下し、後見人選任申立却下の審判に対する即時抗告はいずれも却下し、抗告費用について抗告人らに負担させることとし、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官武田平次郎 裁判官石井彦壽)

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